近年、外国人観光客が増加し、外国語のメニューや案内を充実させる飲食店が増えています。それに伴い、飲食店で働く外国人を見ることが多くなりました。
しかし、その理由は外国人の能力を活かすというより、労働人口の減少により日本人の採用が難しいためです。
2019年4月の入管法改正により新設された在留資格「特定技能」では、飲食の調理、接客、店舗管理などの単純作業に従事する外国人を受け入れることが可能になります。
言語、文化、価値観などが異なる外国人を雇用するには悩ましい面も多々ありますが、そこは工夫次第。バイリンガルな能力で多彩なコミュニケーションがとれる外国人に大いに活躍してもらいましょう。
今回は、変化する飲食業界で外国人を雇用する場合のポイントを解説します。
飲食店の外国人雇用に対するニーズの拡大
飲食店では、求人を出しても応募がなかったり、せっかく採用した人がすぐに辞めてしまったりするケースも多く、慢性的な人手不足が生じています。
厚生労働省の調査では、飲食業の求人倍率は全産業平均に比べて非常に高い水準にあり、人手不足を示す欠員率も5.4%と全産業平均の2倍以上の水準となっています。
(出所)外食業分野における新たな外国人材の受入れについて, 農林水産省食料産業局, 平成31年4月[PDF]
このような状況の中、飲食店では様々な方法で生産性向上に取り組んできました。
飲食店による生産性向上の取り組み例
セントラルキッチンの活用
調理の機械化・自動化
食券販売機の設置
セルフオーダーシステムの導入 etc.
しかし、”手作り感”や”ホスピタリティ”など、飲食業ならではの価値を作り出す上で機械化による生産性向上には限界があります。
また、日本国内の女性や高齢者人材を確保するために、育児や介護に配慮した働き方推進などにも取り組んでいます。外食業の女性従業員比率58.9%、65歳以上の従業員比率12.9%は、いずれも全産業平均を上回る結果となっています。
それでもなお飲食業界の人手不足は深刻で、足りない人材は25万人にのぼるとの見方もあります。地方都市の中には、観光インバウンドが成功して集客力が上がったにも関わらず、地元での働き手がなく十分な飲食サービスの提供ができない町もあります。まさに、飲食業界では働き手を外国人に求めざるを得ない状況となっています。「飲食店リサーチ」が2017年12月に行った調査によると、飲食店の約5割にあたる48.7%(個人店舗では34.3%)が「外国人スタッフの採用経験がある」と回答しています。
このような背景から、、日本は一定レベルの技能を有する即戦力となる人材を海外に求める方針に踏み切り、2019年4月に入管法を改正し、在留資格「特定技能」(特定技能ビザ)を新設しました。飲食店を含む外食業分野における受け入れ見込み数は、5年間で最大53,000人を目安としています。
飲食業での外国人の働き方が変わる!法改正の前と後
外国人が飲食店で働くためには「在留資格」が必要です
まず前提として、外国人が日本で働くためには、従事する業務内容にあう在留資格を取得することが必要です。「どこで働くか?」という店舗の形態ではなく、「どんな仕事をするか?」という業務の内容がポイントになります。
すでに日本に滞在している外国人は、何らかの在留資格を持っています。雇用する際に最初にすべきことは、本人が所持する「在留カード」を見せてもらい、本人「在留資格」と「在留期間」を確認することです。在留資格から「どういう仕事をすることが認めらているか?」が分かり、在留期間から「いつまで日本に滞在できるか?」が分かります。
在留カードとは?
在留カードとは、日本に中長期間在留する外国人に対して交付されるカードで、氏名・生年月日・国籍地域のほか、在留資格と在留期間が明記されています。
なお、観光目的など3カ月以下の短期滞在の場合は対象となりません。
このあと詳しく説明しますが、入管法改正前は、飲食店で接客などのいわゆる単純作業に従事できる在留資格はありませんでした。
入管法改正前(2019年3月まで)
入管法改正前、外国人が飲食店で働くために取得できる在留資格は、主に次の4つでした。
① 永住者・定住者|どんな業務でもOK
外国人の中でも永住者と定住者は、職種、労働時間などに制限を受けることなく、日本人と同じように働くことが可能です。
② 技能ビザ|料理人として働く場合
外国人が外国料理の調理師や料理人として働く場合は、「技能」ビザを取得することになります。
技能ビザ取得の条件は、原則として10年以上の実務経験が求められるなど、申請のためにクリアするハードルが高く設定されています。日本料理店(そば屋、寿司屋など)は対象外、ホール・洗い場での単純労働は認められないなどの制約がありますので、雇用する際は注意しましょう。
③ 技術・人文知識・国際業務ビザ|事務スタッフとして働く場合
外国人が企画、経理、広報などの事務スタッフとして働く場合は、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得することになります。
これは、法律や経済学などの専門的な技術や知識を有しているか、外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務に従事する場合に認められます。たとえば、経営学を学んだ人をマーケティング担当で雇用するケース、デザインを学んだ人をデザイナーとして雇用するケース、母国語を使う通訳として雇用するケースなどが該当します。
専門性については、本国の4年生大学を卒業したこと、または日本の専門学校以上を卒業していることが1つの判断基準となります。
④ 資格外活動許可|アルバイトとして働く場合
「留学」や「家族滞在」の在留資格で滞在している外国人が飲食店でアルバイトする場合は、「資格外活動許可」を取ることになります。この許可を取ることで、1週間に28時間以内の就労が認められます。留学生の中にはアルバイトを掛け持ちする人もいますが、複数の店舗で働く場合は、合計で28時間以内です。
のちのち、就労ビザや永住権の申請をするとき、このルール違反により許可が出ないこともあります。アルバイトを採用するときは、資格外活動許可を取ったことを確認した上で、1週間に28時間以内というルールをしっかりと守らせましょう。
入管法改正後(2019年4月から)
改正前の4パターンに在留資格「特定技能」(特定技能ビザ)が加わり、5パターンとなります。
⑤ 特定技能ビザ|調理・ホールスタッフとして働く場合
外国人が学歴や職歴と関係なく、飲食の調理、接客、店舗管理など、いわゆる単純作業に従事する場合は「特定技能」ビザを取得することになります。
試験により一定の業務スキルと日本語能力があることが認められれば、5年を上限に日本に滞在できます。ただし、雇用する企業側に、外国人の日常生活を支援する計画の作成と実行が求められます。
また、外国人の立場から見ると、家族の帯同ができない、特定技能ビザで日本に滞在した期間は永住権取得の際に考慮されないなど、今後の人生に影響する制約もあります。トラブルにならないよう、雇用の際にきちんと説明することが求められます。
なお、雇用形態は直接雇用のみで、派遣形態での雇用は認められません。
※ 特定技能ビザには、即戦力となる外国人に認める特定技能1号ビザと、熟練した技術を持つ外国人に認める特定技能2号ビザの2種類がありますが、飲食業では特定技能1号ビザのみが該当します。
さいごに
今後、日本で働く外国人が増えることは確実です。人手不足に悩んでいる飲食店でも採用の選択肢が増え、外国人労働力を活かすチャンスとなりそうです。
特に、アルバイトとして雇用してきた留学生を正社員として採用できる可能性が広がることで、スキルとノウハウを身に付けたスタッフの雇用を継続できることは、大きなメリットになると思われます。
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