私は約10年間、NPO法人ブリッジフォースマイルの理事として、児童養護施設の子どもたちの自立を支援する活動に取り組んできました。一般家庭よりも高い高校中退率、低い大学進学率、高い早期離職率という現実があり、18歳で施設を出たあとの彼ら彼女らの中には、常にホームレスや性産業と背中合わせの人生を生きていく人もいます。
しかし、このような過酷な人生を送る可能性があるのは、児童養護施設出身の子どもたちだけではありません。仕事と子育ての両立に悩むシングルマザーの家庭や、何らかの事情で生活保護を受給している家庭など、より裾野の広い問題といえます。
「子どもの貧困」は、日本が抱える数多くの社会課題の中でも、とくに私たちが目を背けてはいけない問題だと思います。
子どもの貧困の現状
まず、日本の子どもの貧困の現状をデータで見てみましょう。平成25年国民生活基礎調査によると、「子どもの貧困率」は16.3%で、約6人に1人が貧困ということになります。これは、OECD34カ国中24位(2008年のOECDレポート)という高い水準です。
【図1】貧困率の年次推移
(出所)「平成25年 国民生活基礎調査の概況」, 厚生労働省
また、厚生労働省社会・援護局の調査(平成23年)によると、一般世帯の子どもの高校進学率が98.2%であるのに対して、生活保護世帯の子どもは89.5%と10%近くの差があります。このことから、家庭が貧困であると教育の機会が減り、学歴が低いと生涯年収が減り、親から子への「貧困の連鎖」が起きていると考えられます。
子どもの貧困対策法
このような子どもの貧困問題に対応するため、平成25年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立しました。第1条の目的には、次のように書かれています。
(目的)
第1条 この法律は、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。
第8条では、国の責務として「子どもの貧困対策に関する大綱」をつくることが定められており、平成26年8月に閣議決定されました。重点施策として、次の6つが記載されています。
- 教育の支援
- 生活の支援
- 保護者に対する就労の支援
- 経済的支援
- 子供の貧困に関する調査研究等
- 施策の推進体制等
▶︎子どもの貧困対策に関する大綱(概要)
▶︎子どもの貧困対策に関する大綱
子どもの貧困問題の解決に向けて
子どもの貧困対策法の目的にも書かれた「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない」社会を実現するためには、児童虐待、ネグレクト、親の就労状況、地域での孤立、病気や精神疾患など、さまざまな問題が複合的にからんで生じる「貧困の連鎖」を断ち切ることが必要です。
2016年5月31日、子どもの貧困問題に取り組む教育支援団体が連携して「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」を立ち上げました。
子どもの貧困を社会全体の課題ととらえ、誰しもが当事者意識を持って考えていくことが大切だと考えます。