職人不足が深刻な建設業界。政府は、外国人材の受け入れ間口を広げることにより人手不足を解消するため、新たな在留資格「特定技能」を創設しました。いわゆる単純労働とされる仕事に就くことも可能な在留資格です。国内の労働力不足が顕著な14業種が対象となり、建設業もその中に含まれます。
今回は、建設業で外国人労働者を雇用する場合に知っておきたいことについてご紹介します。
建設業のこれまでの外国人雇用
国内の労働人口不足は深刻で、人手不足倒産が生じる事態にも陥っています。
東京商工リサーチの調査によれば、2018年度の人手不足を理由とする倒産は前年度比28.6%増の400件となり、2013年度に調査を始めて以来、最多となりました。建設業はそのうちの18.3%を占めています。
(出所)東京新聞, 2019年4月6日
このような背景から、建設業界では外国人労働者数が急激に増加し、平成23年度には12,000人程度でしたが、2017年には4倍以上の約5万5,000人に達しています。
建設分野に携わる外国人数の推移(単位:人)
(出所)建設業における外国人材の活用について, 国土交通省, 平成30年3月9日
在留資格別では「技能実習生」が最も多く、平成29年10月時点で約3万7,000人でした。
この点、技能実習制度は日本で培われた技能、技術、知識を開発途上地域に移転することで、その国の経済発展を担う人材育成を目的とする制度であるため、技能実習1号は1年、2号は3年、3号は5年という期限が定められています。
そこで、政府は平成27年度から、オリンピック・パラリンピック東京大会の関連施設整備等による一時的な建設需要の増大に対応するため、技能実習修了者を対象とする「外国人建設就労者受入事業」を開始しました。
外国人建設就労者受入事業の概要
外国人建設就労者受入事業における受入・管理体制
(出所)建設業における外国人材の活用について, 国土交通省, 平成30年3月9日
期間:2015年度~2022年度末まで
受入対象者:技能実習第2号または第3号修了者(過去に修了し帰国した者を含む)
在留資格:特定活動
在留期間:2年以内(本国に1年以上帰国した者は3年以内)
さらに、2019年4月から新しい在留資格「特定技能」の運用を開始し、外国人労働者の受け入れを拡大しました。対象分野は、労働力不足が認められる14業種で、建設業もその中に含まれています。
この新制度より、建設現場の単純労働でも最長5年間の就労が認められるようになり、建設業界全体に大きな影響を与えると考えられます。
外国人雇用における特定技能と技能実習の違い
建設業界で働く外国人を在留資格別に見ると、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技術・人文知識・国際業務ビザ)を取得し、設計や施工管理といった建設技術分野で就業する高度な専門知識を持つ外国人も大幅に増加しています。
しかし、現在、日本の建設業で働く外国人労働者の中心となっているのは技能実習生です。在留資格「技能実習」(技能実習ビザ)を取得して働く外国人の数は、2015年は約1万8,000人でしたが、2017年には約3万6,000人と、3年で約2倍に増加しました。
若い人材が多い技能実習生は、日本の建設業の労働力不足を補ってきました。ただ、先ほども述べたとおり、技能実習制度の趣旨は日本で得た技術と知識を母国に帰って生かしてもらうことです。雇用する側は、「低賃金で働く若い労働力」という安易な発想ではなく、研修などの計画をしっかり立て、実施していく必要があります。
今回の新制度に導入される「特定技能1号」は、技能試験と日本語能力の試験の両方に合格した外語人が対象となりますが、技能実習2号を修了した外国人は試験が免除されます。
特定技能1号の対象
● 技能実習2号を良好に修了した外国人:技能試験・日本語試験は免除
● その他の外国人:技能試験・日本語試験に合格
そのため、建設業で「特定技能1号」を取得する外国人の多くは、「技能実習」からの在留資格の変更となることが予想されます。
「特定技能1号」に変更することで、技能実習生として最長5年日本に滞在したあと、さらに5年にわたって日本で働けるようになります。企業の立場から見ると、実質的に長期雇用が可能となる上、技術やノウハウの教育に力を入れられます。
他方、外国人労働者の立場から見ると、「特定技能1号」は家族の帯同が認められない、永住権の取得に必要な在留年数に算入できないなど、中長期的なキャリアを形成する上での課題も残ります。
技能実習制度では、外国人を低賃金や劣悪な環境で労働させることが問題となっていますが、「特定技能1号」を取得して雇用する場合には、日本人と同等以上の報酬を支払うこと、日常生活に関する支援について計画を作成・実施することなどが義務づけられており、建設業界の労働環境は改善される見通しです。
建設業における外国人雇用の注意点
新しい在留資格「特定技能」の創設など制度改正に伴い、外国人の雇用を検討したい経営者の方もいらっしゃることと思います。
建設業で外国人を雇い入れる場合、海外にいる外国人を呼び寄せる方法と、すでに日本国内にいる外国人を採用する方法があります。一般的に、後者の方がハードルが低いですが、採用する前に必ず「在留資格」と「在留期間」を確認しましょう。在留資格には、就労できる在留資格と、そうではない在留資格があるので注意が必要です。
在留資格の有無、在留期間、就労できる在留資格であるかどうかは、外国人本人が携帯している「在留カード」の提示を求めることで確認できます。
万が一、適法な在留資格を持たない外国人を雇い続けた場合、不法就労で働く外国人本人だけではなく、不法就労者を雇った雇用者も「不法就労助長罪」という罪に問われることがあります。